2010.06.25  開催前夜・・・特別な思い

審査会前日の6月25日には、ふたつの大きなニュースがありました。
ひとつはサッカーWorld Cup日本代表がデンマーク代表を破り、グループリーグを突破したこと。
もうひとつは大和新潟店が、66年の歴史に幕をおろしたこと。
一方からは勇気をもらいました。もう一方のニュースの受け止め方は人それぞれかもしれませんが、広告制作に携わる者としての新たな決意を抱いた人もいるでしょう。世の中を動かすことが求められる仕事だけに、また、「一人ではできないこともチームでならやり遂げることができる」ということを日々実感する仕事だけに、このふたつのニュースに接した私たちNADC会員の感情は、ある種特別だったのではないでしょうか。
審査会設営会場にも、かつてない特別な空気が流れていました。今年初参加の新人会員や昨年を上回るボランティアスタッフのフレッシュな顔が目立ちます。さらに特筆すべきは応募作品の数でした。経済状況を反映して、エントリーの減少を覚悟していた運営委員の心配が嘘のように消し飛ぶ作品の山。一年間の成果が次々と会場へ搬入され、フロア一面に整然と並べられた様は圧巻。静かに決戦の夜明けを待っているかのようでした。

2010.06.26 AM9:45 審査会スタート・・・張りつめた空気

第4回NADCは、新潟市のランドマークとも言えるNEXT21・6Fの新潟市民プラザでの開催。
広く告知していなかったにもかかわらず長岡造形大やNCADの学生さんたち、一般の方の姿もちらほら見受けられ、新潟のデザインへの関心の高さがうかがえました(あこがれの先生に会いたいという動機が大きかったのかもしれませんが・・・)。
番場会長の開会の辞に続き、審査員の先生方の紹介。
今回の審査員は、青葉益輝先生、新村則人先生、内藤昇先生、岡田善敬先生という豪華な顔ぶれ。日本を代表するアートディレクター4名により厳正な審査が行われました。(昨年に引き続き審査員をお願いした平林奈緒美先生は体調を崩され、残念ながら欠席されました)

青葉先生の開会あいさつ
「新潟へ来ると、なぜかほっとします。ただ今回残念だったのは大和デパートの閉店。これはある意味、君たちの責任でもある(微笑)。ここに並んだこれだけの作品をつくれる人たちが結集すれば、新潟はもっともっと活性化すると思います。では、審査をはじめましょう!」

[一次審査]
応募作品総数、過去最高の382点。各ジャンルごとに整然と並べられた作品に先生方の鋭い眼差しが向けられ、出品者はもちろん会場全体に緊張が走ります。審査方法は恒例の紙コップによる投票。自分の作品にコップが置かれたときには安堵のため息が、置かれずに通り過ぎられたときにはぐっと奥歯を噛みしめる音が聞こえてきそうなほど張りつめた空気が満ちています。先生方が手にしたコップの数が少なくなるにつれ緊張感は増し、ひとつコップが置かれるたびに「おぉー」という低い声が会場のあちこちから漏れていました。この一次審査を通過するのは、各ジャンルの出品作品の約6割。青葉先生からは「どのジャンルでも、ギリギリ残った作品とギリギリで落ちた作品の差はほとんどない。90点と85点の差くらいだね」という言葉をいただきました。

■C部門:ジェネラルグラフィックス
青葉先生のコメント
「全体的に見て、質はけっして低くない。ただし、アートディレクションというよりもグラフィックデザインの作品が多いという印象を受けました。企業・社会に対してのディレクションではなく、自分に対してディレクションしているような感じです。クライアントチェックを受けていない作品が目立ち、よく言えば社会に揉まれていないフレッシュな人が多いということかもしれません」

■F部門:パッケージ
内藤先生のコメント
「酒処新潟だけあって、日本酒のパッケージが目立ちました。アイデアの感じられる作品に票を入れました」

■D部門:ブック・エディトリアル
新村先生のコメント
「きれいな作品もありましたが、掲載要素を整理し写真を削るなどしたらもっとよくなる作品が多かったですね。妥協せずに整理&研究をして、よりシンプル、より美しいレイアウトをめざしてください」

■E部門:CI・シンボル・ロゴ・キャラクター
岡田先生のコメント
「個人的にマーク、シンボルや書体が好きなので楽しみにしていた部門です。小さな仕事でもアイデアがあったり、ぱっと見た瞬間に楽しさが感じられる作品があり、楽しんで審査できました」

■B部門:新聞広告・雑誌広告
青葉先生のコメント
「応募点数が少なく、残念。この部門に出してもダメだろうと思ったのでしょうか?出品作品はどれも水準が高く、全国紙(誌)に出しても充分耐えられる質がありました。“こんなモノは東京じゃできないだろう!”というくらいの意気込みで作ってください」

■I部門:環境・空間・サイン・ディスプレイ
新村先生のコメント
「この部門には、いいものがたくさんありました。どれに票を入れようか迷い、葛藤するほどレベルが高かったと思います」

■G部門:WEB・インタラクティブ
岡田先生のコメント
「レベルの高い作品が多かったです。なかでもiPhoneのアプリ「うでたて道場」は、時代を感じさせる面白い作品だと思いました」

■A部門:ポスター
内藤先生のコメント
「バラエティーに富んでいました。山古志の闘牛のポスターのように地域色を全面に押し出した作品もありますが、企業や地方公共団体と向き合い、掘り下げている作品が少なかった。イメージ寄りの作品が多かったという印象です」

■H部門:TVCM・映像・モーショングラフィック
青葉先生のコメント
「TVCMが少なかったね。いいものもあり、まあまあのものもあり、という印象です。すべての部門に言えることは、全体的に清く、汚れていない。いい意味で素直。自分と闘っていない。“作り方上手”になろうとして、“誰か”のような作品を作ろうとしているから、どんなにがんばっても“どこかにありそうなもの”になってしまう。もっと“見られ方上手”にならないと。見ようと思っていない人がつい見てしまう、それがアートディレクションであり、グラフィックデザインです。もっと大胆なことをしないと“見られ方上手”にはなれない。思い切ってサボるか、めちゃめちゃ頑張るか・・・なりふりかまわず“見られ方上手”になることが大切だと思います」


[二次審査]
二次審査では、先生方がそれぞれ15票の紙コップを持ち、一次審査を通過した作品へ部門を問わず投票が行われました。すでに票が入っている作品には投票しないというルールにより、一気に60作品へと絞り込まれます。青葉先生は歩きながら躊躇なく票を入れていきます。「作品に『私を選んで』と言わせることが大事。東京ADCだと1万点が集まる。じっくり見てもらえない状況で選ばれていくんだからね」と青葉先生。新村先生と内藤先生は全体を見渡しながら、これぞという作品へ一票一票。岡田先生は残り数票でかなり迷われ、いくつかの作品の間を何度も往復され、丹念に見比べて票を投じてくださいました。

青葉先生のコメント
「残してあげたいと思う作品がたくさんありました。それだけに、ここに残った作品はいいものばかりです。デザインと同じで整理整頓すると、いいものが残る。自分のアイデアに酔い、そのままカタチにするだけではプロではない。ドギツイもの、ずる賢いもの、カミソリのように切れるけど触ったら折れちゃいそうなもの、それくらいじゃないと街では無視されます。『できた!』と思ったら、作品を置いて通り過ぎてみてください。背を向けてください。何も残らなかったら、その作品はまだ駄目です」

新村先生のコメント
「優れた作品もありましたが、もっと追求してくれたら良くなる作品が多かったですね。写真点数を絞ったり、撮り方を工夫したり、こだわればこだわるほど作品は磨かれます」

内藤先生のコメント
「シリーズ作品を出す場合、全部出すのではなく、完成度の高いもの3点に絞るなど、“よりよく見せる”工夫も大切です」

岡田先生のコメント
「かなり迷いました。『もうちょっとこうだったら・・・』と思う作品が多かったです。仕事の大小に関わらず、『これをもらったら、これを目にしたら、人は嬉しくなるだろうな』と思える作品を選びました」


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